生成型とテンプレート型の反応予測を統合する逆合成AI「RetroChimera」が、複雑分子の切断候補を化学者が評価する盲検試験で、構成モデルや既存手法を上回った。順位別に学習した投票が、異なる得意分野の予測を束ねる。
生成型とテンプレート型で前駆体を探す
逆合成は、作りたい標的分子から出発し、合成可能な前駆体へ段階的に分解して経路を組み立てる。Microsoftが開発した逆合成AIモデルのRetroChimeraは、標的分子を入力として、合成に使える前駆体の候補を予測する。
候補の生成には、Transformerベースの生成型モデルR-SMILES 2と、グラフニューラルネットワークを使うNeuralLocを組み合わせる。R-SMILES 2は前駆体を直接生成する一方、NeuralLocは標的分子と反応テンプレートをグラフとして符号化し、適用するテンプレートと反応位置を選ぶ。
順位別の票が相補的な候補を一つに束ねる
2つのサブモデルが出した反応候補は、learning-to-rankによる再順位付けへ渡される。各候補には、サブモデル内の順位に応じて学習された票が付き、両モデルが同じ反応を提案した場合は票を加算する。
この統合が利用するのは、モデルごとに異なる反応上の得意分野だ。R-SMILES 2は反応前後の変化が大きい反応で特に強く、NeuralLocは前例の少ない反応や局所的な変化を伴う反応で優位だった。
化学者の盲検評価で複雑分子の候補を比較
Microsoftの盲検試験では、専門の化学者が複雑分子の個々の切断候補を評価した。RetroChimeraの候補は、2つの構成モデル、既存の逆合成手法、テストデータに記録された反応より好まれた。
多段階の合成経路を調べた別の専門家評価では、10個の難しい標的のうちRetroChimeraが示した経路は9個で受け入れられた。同じ条件では、de novoモデルが5個、編集型モデルが4個、NeuralSymが2個だった。
独自データへの適応と公開モデルの境界
RetroChimeraの検証には、学習時とは異なる独自データセットへ直接適用するzero-shot transferと、そのデータを使うfine-tuningも含まれ、いずれも成功した。特定分野の反応データへ適応できることが、共通データ上の比較とは別に確認された。
Microsoftは実装をMIT Licenseで公開し、PistachioやUSPTO由来のデータで学習したチェックポイントを提供している。一方、学習分布から外れた入力や出力順位の低い反応では誤った候補を生成し得るとしており、実際の合成へ使う前に化学の専門家によるリスク評価と独立した確認を求めている。